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介護士と理容師  ~道を拓く~ 梅香園

フロアに理容ハサミのリズミカルな音が響きます。床には畳2畳ほどのビニールシート。

ここは、梅香園内の臨時美容室「B・wing」。介護職兼理容師の新田実さんが、体勢を動かしづらいご利用者さんに合わせて、後ろや前に回り、真剣なまなざしで髪の毛にハサミを入れます。新田さん自身も足に支障があります。体を自由に動かせない人の立場はよく分かります。

「だいぶ伸びていたので後ろも短くしときましたよ。」新田さんが落ち着きのあるゆっくりとした声で話しかけます。

「散髪はひさしぶり、若返ったわ。」ご利用者さんもさっぱりしたご様子。コロナ禍で訪問理容が中止になって久しいです。

新田さんは介護職として梅香園で勤務しています。元々は理容師です。神戸や芦屋で10年間の下積み時代を経て技術を磨きました。仕事のあと毎晩練習に励み、若手理容師が競う阪神地区の大会で4連覇、県大会でも3位に入ったことがある腕前です。ファッション性の高いカットが見込まれて、関西圏だけでなく、関東でも仕事をこなすようになったときに、東日本大震災に遭います。茨城県に住んでいましたが、知人も少なく慣れない環境にストレスが積もる日々、悩みを吐き出す場所がありませんでした。仕事中も立っているのがつらい日が増え、体調を崩して半年入院、脳炎と診断されました。

両足が動かずリハビリが続き、理容の道をあきらめかけていました。そんなとき、同じ病室で知り合った人から「訪問理容っていう仕事もあるよ。人生下りがあれば上りがある。今は下り坂。あとは上るだけ」という言葉に勇気づけられたそうです。職業訓練所に通いパソコンや事務を学び訪問理容の道を探る中、介護職フェアで梅香園と出会いました。「もっと人とかかわる仕事がしたい。」という思いからでした。面接の時、米口施設長が自分の夢に真剣に耳を傾けてくれたのがとても嬉しかったと言います。介護の仕事を始めてしばらくしたときにコロナの感染が拡大、理容業者が施設内に入ることができなくなりました。ご利用者さんの髪がどんどん伸びる姿に心が痛んだそうです。自分の技術が役に立てないか…とボランティアを申し出ました。

数か月後、米口施設長から「訪問理容を本格的に始めてみては」と背中を押してもらい「B・wing」を立ち上げることができました。名前の由来はBarber(理髪)とbird

(鳥)、wing(翼)から。初めて梅香園に来た時に2羽の鳥が目の前で羽ばたいていった場面が記憶に残っていました。これを機に大きく羽ばたきたいという思いを込めました。

新田さんは、今でも10年前に患った脳炎の後遺症で両足の自由がききません。介護職のスキルを磨きつつ訪問理容の幅を広げていきたいと考えています。そして両方の分野を通じて「もっと多くの人と関わりたい。みんなに僕のことを知ってほしい。」「僕の技術で一人でも多くの人を笑顔にしたい」と願っています。

「一人ではできなかった。人との出会いに感謝しています。仕事が終わったあとに、すぐに帰るのはなんだか名残り惜しくてね。ご利用者さんとお話しする時間もとても楽しいんですよ。」と優しい笑顔で話す新田さん。

梅香園で夢への第一歩を踏み出しました。

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